学習心理学

英文読解力を向上させる学習法は?

長文英語の読解成績向上の鍵の一つに文法知識があります(詳しくはこちら「長文英語の読解に重要なのは何?」)。

文法知識の中でも、特に統語知識が重要です(門田他, 1999; Nishida, 2021; Terada, 2009)。統語知識とは、単語や句・節を正しく認識するだけでなく、それぞれが文中で果たす役割(主語・目的語・修飾語など)や相互の関係を理解し、それを文全体の意味に統合するための知識を指します(Nishida, 2021)。言い換えれば、単語レベルではなく、より大きな構造単位で意味を構築するための文法的知識です。

実際に、Terada(2009)では、統語知識を利用することで回答ができる句順の並べ替え問題や句内での語順入れ替え問題の正答率と、読解成績との間に相関があることが示されています。門田他(1999)では、統語知識がない場合、単語の意味を理解できても、それらが句や節として提示されたときには意味を理解できないことが報告されています。さらに、中級程度の英語力を持つ大学生を対象としたNishida(2021)の調査でも、句同士のつながりを把握できないことが読解の困難さにつながることが示されました。

以上を踏まえると、統語知識は長文英語の読解成績の向上に不可欠であると考えられます。では、統語知識を効果的に獲得し、読解力を高めるにはどのような学習方法が有効なのでしょうか。

①(理解が困難な文章にのみ)スラッシュリーディング&句間の関係性の学習

学習者が理解に困難を感じる英文に対して、英文を意味単位の句で区切るスラッシュリーディングを行い、句間の関係性を学習させる手法が考えられます。

かつてスラッシュリーディングは読解成績への効果が乏しいとされていました(Hijikata, 2005; Yamashita & Ichikawa, 2010)。しかしその後、スラッシュリーディングに加えて句単位の関係性を説明する統語知識を提供することで、読解成績が向上することが示されています(浅井, 2021)。

このことから、意味単位を区切るスキルと、句間の関係性を説明できる統語知識の習得が読解力の向上に重要であると考えられます。そこで有効な手法として考えられるのが、理解困難な英文を対象にスラッシュリーディングを行い、句間の関係性を学習する方法です。 理解に困難を感じる文は、句間の関係性の理解の不足を示している可能性があり、それを用いることで、句間の関係性を学習する機会になりうるからです。

実際に、類似する学習方法が新しい英文の読解成績向上にもつながることを示唆する研究も存在します。

例えば、駒場他(1992)では、上級学習者が自ら英文にスラッシュを入れる練習を行った場合、その後に異なる英文を読んだ際の読解テスト成績が向上することが示されています。

スラッシュリーディングを行った上で句間の関係性を理解し、説明する学習が新規の英文の読解成績に有効かどうかは、直接的に実証された研究は見当たりません。しかし、スラッシュリーディングや統語知識が読解成績に影響を与えることを踏まえると、この学習法が統語知識の獲得を促し、その後の読解成績の向上につながる可能性は十分に想定されます。

ただし、スラッシュリーディングをすべての英文に適用することが効果的とは限りません。すでに理解できる文にまでスラッシュを入れることは、新しい知識の獲得につながらず、かえって学習効率を下げてしまう可能性があります(及川, 1992; 湯船, 2007)。

一方で、先述した通り、理解に困難を感じる文は、句間の関係性の理解の不足を示しており、そのような文に対してスラッシュリーディングを行い、句間の関係性を学習することは、新たな統語知識の獲得に直結し、その後の読解力向上に寄与すると考えられます。

そのため、学習者が理解が困難だと感じる英文に対して、英文を意味単位の句で区切るスラッシュリーディングをした上で、句間の関係性を学習する手法が読解成績の向上のためには効果的であると考えられます。

②不慣れな統語知識を含む文を理解した上で繰り返し読んで慣れる

二つ目に有効と考えられるのは、学習者が解釈に困難を感じやすい統語知識を含む文章に繰り返し触れる学習です。まずは①で述べたように、スラッシュリーディングなどを用いて句間の関係性を確認しながら理解します。その上で同じ文に繰り返し触れることで、その統語知識を利用する処理に徐々に慣れていくことができます。

ただし、一つの文だけを繰り返し読む場合、その文の表現を暗記するにとどまり、統語知識そのものの活用には結びつかない可能性があります。そのため、同じ統語知識を利用している複数の文を読むことが重要です。

実際に、Hirano & Yokokawa(2024)では、特定の統語知識を含む様々な文章を用いて繰り返し学習することにより、同じ統語知識を含む新しい文章の読解成績が向上することが示されています。同研究では、理解できていない文に対して統語知識を明示的に学ぶ機会は十分には設けられていませんでしたが、そうした学習機会を組み合わせれば、学習者の統語知識への理解はさらに深まり、学習効果も高まると考えられます。

このことから、不慣れな統語知識を含む文を理解した上で繰り返し読み、その知識を複数の文脈で活用できるようにする学習は、読解力の向上に有効であると考えられます。

以上、英文読解力を向上させる学習法の紹介でした。英文理解が苦手な人はこちらの語彙力向上の記事も参考にして学習を進めてみてください。

【引用文献】

浅井 智雄 (2021). 英文理解指導時に学習者に提供する統語的情報の質的な差と英文理解度の関係. 福山平成大学副詞健康科学研究紀要, 16, 13–26.

Hijikata, Y. (2005). The chunking process and reading comprehension of Japanese EFL learners. ARELE: Annual Review of English Language Education in Japan, 16, 61–70.

Hirano, A., & Yokokawa, H. (2024). Effects of experience-based learning on Japanese EFL learners’ relative clause processing. JACET Journal, 68, 9–26

門田 修平, 吉田 信介, & 吉田 晴世 (1999). 読解における処理単位: 英文の提示単位が理解度および処理時間におよぼす影響. 全国英語教育学会紀要, 10, 61–71.

駒場 利男, 川崎 寛二, 増淵 民男, 津吹 文男, 相澤 一美, 福田 勉, 岩原 典子, & 手塚 拓郎 (1992). パソコンによるコミュニケーションのためのリーディング指導――フレーズ読みと速読のスキルを中心として. STEP BULLETIN, 4, 88–107.

Nishida, H. (2021). What is required for successful syntactic parsing in reading comprehension of intermediate-proficiency EFL learners: A qualitative data analysis. 人文学フォーラム, 19, 197–213

及川 賢 (1996). 学習者の語彙力とフレーズリーディングの効果に関する実証的研究. 関東甲信越英語教育学会研究紀要, 10, 15–23.

Terada, Y. (2009). Word order anagram test and reading comprehension in EFL: What type of word order awareness should be focused on in teaching? JLTA Journal, 12, 1–15.

Yamashita, J., & Ichikawa, S. (2010). Examining reading fluency in a foreign language: Effects of text segmentation on L2 readers. Reading in a Foreign Language, 22(2), 263–283.

湯舟 英一, 神田 明延, 田渕 龍二 (2007). CALL教材における英文チャンク提示法の違いが読解効率に与える効果. 外国語教育メディア学会機関誌, 44, 215–229.

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