英語の長文理解と語彙力の関係
「英語の長文って、内容が全然頭に入ってこない…」そんなふうに感じたことはありませんか?英語の長文が読めない理由の多くは「語彙力の不足」にあります。
実際、読解に必要な語彙のカバー率(どれだけの単語を知っているか)と理解度には、強い関係があることがわかっています。たとえば、Laufer(1989)では「95%」、Hu & Nation(2000)では「98%」の単語を知っていないと、長文の内容が理解しづらいとされています。さらに最近の研究(Schmitt et al., 2011)では、「知っている単語の割合が高ければ高いほど、理解度が一次関数的に高まっていく」ということも明らかになっています。
つまり、英語長文を理解できるようになるには語彙力が一つのカギです。そして特に大切なのが、英単語を見て意味を思い出せる「受動語彙(receptive vocabulary knowledge)(Laufer et al., 2004)」の力です。
受動語彙を高めるための方法
受動語彙を高めるためのやり方についてはいくつも提案がなされています。今回のブログではいくつか紹介します。必要に応じて、自分の学習方法を改善してみてくださいね。
① 新出単語で文章作成を行う
1つ目は新出単語で文章作成をすることです。Xu(2010)では、リーディングの授業で生徒を4つの条件に分けて、受動語彙の獲得量に差があるか実験を通じて検討しました。
条件①:分からない単語を辞書で調べさせながらテキスト理解を促す
条件②:テキストの隣に新出単語の意味を示した上でテキスト理解を促す
条件③:新出単語はテキストの隣に意味を示す+新出単語で英語の文章作成させながらテキスト理解を促す
条件④:テキストの隣に意味を示さず+辞書利用もせずにテキスト理解を促す
この結果、条件③の「新出単語はテキストの隣に意味を示す+新出単語で英語の文章作成させながらテキスト理解を促す」が一番受動語彙の獲得に効果的であることが示されました。そのため、受動語彙を獲得したい人は新出単語を用いて英文を作って見てください。受動語彙の獲得が促進されます。また、これらの条件は全て同じ時間で行われているため、授業方法としても活用することができます。英語の先生もぜひ、短い授業時間の中でも、新出単語を使った英文作成をさせてあげてください。
② リーディング内容を日本語で学習する
2つ目はリーディング内容を日本語でも学習することです。Roberts(2008)は、英語の授業前の課題を変えて、受動語彙の獲得量に差があるか実験を通じて検討しました。
条件①:母語でリーディング課題を読んでおくこと
条件②:英語でリーディング課題を読んでおくこと
その結果、事前に母語でリーディング課題を読んでおくことで、後々の受動語彙の記憶が向上することが示唆されました。このようなことが起こる理論的背景としては、リーディング内容について豊かな知識を持つことで、英単語が示す内容についてイメージがしやすくなることが指摘されています。そのような理論的背景を踏まえると必ずしも予習だから有効なわけではなく、事後でも十分に有効であることが考えられます。
したがって、事前でも事後でも、日本語でリーディング内容を学習することは重要であることが考えられます。また、この理論は古典や漢文にも応用可能ではないかな?と思います。必要に応じて、いろいろな分野で活用してみてください。
③ 単語を記憶から取り出すテストを行う
3つ目は、単語を記憶から取り出すテストを何度もすることです(Karpicke & Roediger, 2008; Yanagisawa, 2016; Kang et al, 2013)。Yanagisawa(2016)では、学習時の条件を変えることで、受動語彙の獲得量に差があるか実験を通じて検討しました。
条件①:学習時に英単語を見てその意味を思い出すように促す条件
条件②:英単語とその意味を示す絵を見ながら英単語を発音する条件
その結果、英単語を見て思い出すように促す条件で受動語彙の獲得多くなることが示されました。さらに、Yanagisawa (2016)では、学習時に意味から英単語を思い出すテストを行うことでも同様に受動語彙の獲得に影響を与えることが示されています。同様にKang et al(2013)で絵を見て単語を思い出す学習を行うことが受動語彙の獲得が多くなることが示されています。以上のように、記憶から単語の意味もしくは単語自体を取り出すことを行うことは、受動語彙の獲得が促進されます。簡単にいうと、見て覚えたり、発音して覚えるのではなく、覚えているかどうかのテストを積極的にすることが良いということです。
また、このやり方は、受動語彙だけではなく、日本語の意味を英語に変換する「生産語彙(productivevocabulary knowledge)(Laufer et al., 2004)」でも用いることができます。ただし、生産語彙の獲得を目指す際には受動語彙とは異なり、生産語彙の獲得に合わせて学習方法を定める必要があります。具体的には意味を見て英単語を思い出すことを訓練することです。先ほどの受動語彙の場合、英単語から意味を思い出す場合でも、意味から英単語を思い出す場合でも効果が示されていますが、生産語彙に関しては意味から英単語を思い出す条件でしか有効性が確認されていません(Yanagisawa, 2016)。そのため、生産語彙に関しては、意味から英単語を思い出す訓練をする必要があります。目的に合わせて、学習形態を変更しましょう。
④スペルと音をつなげて処理する
4つ目はスペルと音をつなげて処理することです。単語を見てもうまく発音できないことは日本のみならず、海外でも指摘されていることです(Hue & Lan, 2024)。単語を見て発音するには、スペルと発音を関連づけることが必要です。そして、スペルと音を関連づけることが受動記憶の向上に有効であることは示されています(Ehri, 2005, 2020; Ehri & Rosenthal, 2007)。
Ehri(2005)やEhri & Rosenthal(2007)では、新出単語の提示の仕方を変えることで、受動語彙の獲得量に差があるか実験を通じて検討しました。
条件①:新出単語について音声を聞いてそれを学習者がリピート
条件②:条件①に加えてスペルも学習者に提示して学習者がリピート
その結果、スペルを見て学習した生徒の方が受動語彙の獲得が促進されることが示されました。また、Ehri(2020)では、このような効果が幅広い条件で確認されていることも示されています。以上を踏まえると、スペルと音をつなげて処理することが受動語彙の獲得に有効であることが示唆されます。しかしながら、初学者はスペルから適切な音を割り当てることが困難である(Maeda, 2020)ことも示されており、適切にスペルと音をつなげるためのサポートを教師がする必要もあります。音とスペルを関連づけることが苦手な生徒さんも現在はネットで音声も調べることができるので、必要に応じてスペルと音を関連づけるようにトレーニングして見てくださいね。学校の先生もフォニックスなど必要に応じて活用いただけますと幸いです。なお、生産語彙の獲得に関しても、音とスペルをつなげることの重要性は示されています(Share, 1999)。
【引用文献】
Ehri, L. C. (2005). Learning to read words: Theory, findings, and issues. Scientific Studies of Reading, 9(2), 167–188. https://doi.org/10.1207/s1532799xssr0902_4
Ehri, L. C. (2020). The science of learning to read words: A case for systematic phonics instruction. Reading Research Quarterly, 55(S1), S45–S60. https://doi.org/10.1002/rrq.334
Ehri, L. C., & Rosenthal, J. (2007). Spellings of words: A neglected facilitator of vocabulary learning. Journal of Literacy Research, 39(4), 389–409. https://doi.org/10.1080/10862960701675341
Hue, B. T., & Lan, T. T. (2024). Common pronunciation errors among non-English major students at Tan Trao University. European Journal of Contemporary Education and E-Learning.
Kang, S.H.K., Gollan, T.H. & Pashler, H. Don’t just repeat after me: Retrieval practice is better than imitation for foreign vocabulary learning. Psychon Bull Rev 20, 1259–1265 (2013). https://doi.org/10.3758/s13423-013-0450-z
Karpicke, J. D., & Roediger, H. L. III. (2008). The critical importance of retrieval for learning. Science, 319(5865), 966–968. https://doi.org/10.1126/science.1152408
Laufer, B. (1989). What percentage of text-lexis is essential for comprehension? In C. Lauren & M. Nordman (Eds.), Special Language: From Human Thinking to Thinking Machines (pp. 316–323). Multilingual Matters.
Laufer, B., Elder, C., Hill, K., & Congdon, P. (2004). Size and strength: do we need both to measure vocabulary knowledge? Language Testing, 21(2), 202-226. https://doi.org/10.1191/0265532204lt277oa
Meade, G. (2020). The role of phonology during visual word learning in adults: An integrative review. Psychon Bull Rev, 27, 15–23. https://doi.org/10.3758/s13423-019-01647-0
Roberts, T.A. (2008), Home Storybook Reading in Primary or Second Language With Preschool Children: Evidence of Equal Effectiveness for Second-Language Vocabulary Acquisition. Reading Research Quarterly, 43: 103-130. https://doi.org/10.1598/RRQ.43.2.1
Schmitt, N., Jiang, X., & Grabe, W. (2011). The percentage of words known in a text and reading comprehension. The Modern Language Journal, 95, 26–43. https://doi.org/10.1111/j.1540-4781.2011.01146.x
Share, D. L. (1999). Phonological recoding and orthographic learning: A direct test of the self-teaching hypothesis. Journal of Experimental Child Psychology, 72(2), 95–129. https://doi.org/10.1006/jecp.1998.2481
Yanagisawa, A. (2016). The effects of receptive and productive word retrieval practice on second language vocabulary learning. KATE Journal, 30, 139–152. https://doi.org/10.20806/katejournal.30.0_139
Xu, X. (2010). An empirical study on the effect of task on L2 incidental vocabulary acquisition through reading. Asian Social Science, 6, 126.