2022年度より高等学校において、「総合的な探究の時間」が必修化された(文部科学省, 2018)。「総合的な探究の時間」では、生徒のキャリア形成の方向性に関連づけて探究学習を行うこと(中央教育審議会, 2016 ; 文部科学省, 2018)、さらには、生徒が自ら問いや課題を見いだすこと(中央教育審議会, 2014; 中央教育審議会, 2016 ; 文部科学省, 2018)が求められている。なお、文部科学省(2018)では、問いと課題を明確に区別しておらず、今後の議論は問いを前提として、議論を進めるものとする。
「総合的な探究の時間」において、生徒のキャリア形成の方向性に関連づけて探究学習を行う意義は一定の理解をすることができる。日本において、後期中等教育を終了した後、就職もしくは進学を選択する生徒が多数を占めている。そのような中で、自らの専門性をどこにおいていくかを検討して、自らの興味関心や価値観に気づき、積極的な進路選択をしていくことは、その後の就職先、進学先での高い意欲を持って、労働・学業に取り組むことにつながるからである。
しかしながら、生徒自身が想定している「キャリア形成の方向性」に限定した上で、探究学習を実践させる必要性はないと考える。「キャリア形成の方向性」に限定すると考えた時に、現場では特定の職業を前提とする場合が見受けられる。しかし、世に存在する職業は時代によって、変わりゆくものである。実際に、現在存在している職業もなくなる可能性も示されており(Autor, 2015)、それと同時に、過去には職業としては存在しなかったもの(例:「退職代行業」、「探究学習支援の教材開発業」など)も生じている。そのようなことを踏まえると、既存の職業を前提にした探究学習である必要性は必ずしもないと考える。それよりも、「キャリア形成の方向性」に限定をせずに、自己にとって重要な問いを探究することで探究活動が促進され、その結果として、既存の職業の枠組みに縛られずに、興味を大切にした積極的な進路選択につながると考える。
「総合的な探究の時間」において、生徒が問いを見出すことは重要である。現代は、知識・情報・技術が急速に変化する時代(中央教育審議会, 2016; Loeng, 2020)であり、教育機関で得た知識だけでなく、卒業後にも自ら新たな知識を獲得し続ける必要がある(Loeng, 2020)。そのため、教育機関に依存せず、自ら学習対象を見つける力を育成する重要性が指摘されている(Loeng, 2020)。このことは、「総合的な探究の時間」の重要性を強調する。なぜならば、「総合的な探究の時間」では、生徒自身が学習対象を「問い」という形で見出すことを求めているからである。また、このように生徒自身が学習対象を見つけ、学習していくことは、知識獲得にも効果的である可能性がある。実際に、Murad et al.(2010)は能動的な学習と受動的な学習の比較研究をメタ分析し、能動的な学習が知識獲得に中程度の効果を持つことを示している。
以上を踏まえると、「総合的な探究の時間」は、労働や学業に対する高い意欲の涵養や、能動的な学習者の育成という観点において、非常に重要である。
引用文献
Autor, D. H. (2015). Why are there still so many jobs? The history and future of workplace automation. Journal of Economic Perspectives, 29(3), 3–30. https://doi.org/10.1257/jep.29.3.3
中央教育審議会 (2016). 幼稚園, 小学校, 中学校, 高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について (答申)
Loeng, S. (2020). Self-directed learning: A core concept in adult education. Education Research International, 2020, 3816132. https://doi.org/10.1155/2020/3816132
文部科学省 (2018). 高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 ―― 総合的な探究の時間編―― 学校図書株式会社
Murad, M. H., Coto-Yglesias, F., Varkey, P., Prokop, L. J., & Murad, A. L. (2010). The effectiveness of self-directed learning in health professions education: a systematic review. Medical education, 44(11), 1057–1068. https://doi.org/10.1111/j.1365-2923.2010.03750.x